日本の家の主な構造として、木造の他に鉄骨造があります。
ここでは、鉄骨造の特徴を簡単にまとめていきます。
少々専門的な話が出てきますが、工法でお悩みの方の、ひとつの参考にしていただければ幸いです。
今回の結論。
✅鉄骨造は、素材の強度が高く、靭性(粘り強さ)があるため、地震に強い。
✅鉄骨造は、現場での加工が少ないので、均等な品質を担保できる。
✅一方、一定の温度に達すると急激に耐力が低下するため、耐火処理をする必要がある。
✅鉄骨造は高価。
鉄骨造の材料
鉄骨造で用いられる材料には、炭素鋼、ステンレス鋼、鋳鉄があります。(建築基準法施行令第64条)
その中で最も用いられているのは、炭素鋼(鋼材)です。
鋼材とは?

鋼材の主成分は、鉄(Fe)、炭素(C)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)です。
なので、鉄と鋼は異なります。鋼、つまり鋼材は鉄に添加物を入れて調整したものです。
鋼材は、以下の工程を経て作られます。
①鉄鉱石・コークス・石灰石を高炉で溶かし【製銑】
②含有される成分を調整し【製鋼】
③一定の形に固められ【鋳造】
④熱処理して成形する【圧延】
製鉄された鋼材には「ミルシート」という検査証明書が発行されます。
これ見れば、製造元や成分、強度等を確認できます。設計士や施工管理技士は、この証明書をもって、品質を担保します。
(このミルシートの改ざんで、一時期、某製鉄メーカーが大変なことになりましたね。)
鋼材の特徴
鉄骨造の特徴は、何といっても強度が高く、靭性(粘り強さ)があり、加工性が良いことです。
そのため、住宅の他、事務所、商業施設、高層ビル、アリーナなどの大空間など、様々な建築物の材料として使用されています。
しかし、鉄骨造の歴史はそんなに長くはありません。
1700年代後半、イギリスで世界初の鉄骨造の橋(アイアンブリッジ)が建造され、日本ではその100年後、1800年代後半に、印刷工場が初めて鉄骨造として建設されました。
木造などと比べると、新しい工法なのですね。
形鋼とは?

鋼材は、熱処理された後、JISで規格された形に成形されます。この成形された材料を「形鋼」といい、用途や接合のしやすさに応じて、様々な形が存在します。
日本の形鋼は主にJIS規格を元に作られていますが、柱などは、一部国土交通大臣の認定品もあります。
また、各ハウスメーカーで使用されている形鋼は、一部を除き主に軽量形鋼です(軽量鉄骨ともいいます)。
形鋼(重量鉄骨ともいいます)は、主に中規模以上の建築物に使用されます。
以下に一覧表を記載しますので確認してみてください。


工法
ここからは工法について紹介していきます。
鉄骨造の工法には、大きく分けて「ラーメン構造」と「ブレース構造」があります。
ラーメン構造

食べ物ではありません。
ラーメンは、ドイツ語で「枠」や「額縁」という意味があります。その意味の通り、柱と梁(柱をつなぐ横の材料)で組み立てられた枠のような構造を「ラーメン構造」と言います。
中規模の建築物で採用される構造で、住宅ではほとんど採用されません。
耐震性 ◎
非常に高いです。
鉄骨造はその素材の強さに加え、高い靭性(ねばり強さ)を持っています。この靭性によって、地震の力を吸収します。特にラーメン構造は、後で述べるブレースのような押さえ材が入っていないので、その特性を活かしやすい構造で、構造力学的には「やわらかい構造」です。やわらかいが故に振動が大きいため、居住性には乏しい構造かもしれません。
耐火性 △
比較的低いです。
建築基準法上は不燃材です。しかし、一定の温度に達すると急激に耐力が低下してしまいます。耐火性を担保するには、耐火石膏ボードなどで被覆をする必要があります。しかし現在は耐火性が高い鉄骨(FR鋼など)も開発されていますので、各ハウスメーカーの素材特性を良く確認することをお勧めします。
耐久性 ◎
高いです。
大部分を工場で加工し、現場はそれを組み立てるだけなので、現場での施工期間が非常に短いです。従って、雨天等による劣化の心配もなく、均等な品質を担保できます。法令で定められている、減価償却資産の耐用年数では、木造よりも長く設定されています。
省エネ性 △
処理の仕方によっては低くなります。
鋼材自体が熱を通しやすいため、きちんと断熱材で囲わないとヒートブリッジやコールドブリッジという現象を起こし、断熱性能の低下や、結露の原因になったりします。
経済性 ×
高価です。
木造に比べると効果になります。ただし、鉄筋コンクリート造に比べると安価です。従って、住宅規模では割高となり、中規模建築物では割安となります。
意匠性 ◎
高いです。
強度が高く、自重が軽いため、大空間がつくりやすいです。また、枠以外は構造体となることが少ないため、改修の自由度も高いといえます。ただし、柱・梁の部材断面が大きくなるため、それをどのように隠すか(あるいは敢えて隠さないか)という工夫が必要になります。
ブレース構造

柱・梁の枠と、斜め材(ブレース)で構成される構造です。構造力学的にはトラス構造と呼んだりします。
ラーメン構造には曲げの力が発生しますが、ブレース構造は、ブレースが入ることにより、軸力しか発生しなくなります。鋼材は軸力に強いため(軸力には引張・圧縮があるが、引張に強い)、断面を小さくできることができる、合理的な構造なのです。
住宅で採用される鉄骨造は、主にこのブレース構造です。
耐震性 ◎
小規模建築物としては非常に高いです。
ブレース構造は、斜め材によって堅い枠を形成します。その堅い枠によって、地震の力に対抗します。従って、ラーメン構造がやわらかい構造ならば、こちらは「堅い構造」といえます。堅いので振動は少なく、居住性は良いです。大手ハウスメーカーでは、この斜め材の部分に制振機構を付けることによって、地震の力を吸収するものもあります。
耐火性 △
ラーメン構造と同じく、比較的低いです。
耐久性 ◎
ラーメン構造と同じく、高いです。
省エネ性 △
ラーメン構造と同じく、処理の仕方によっては低くなります。
経済性 △
比較的高価です。
ブレース構造は先述の通り、軸力しか発生しないため、鋼材の断面が小さくなります。そのため、ラーメン構造と比べると安価となります。ただし、木造よりは圧倒的に高価です。
意匠性 〇
比較的高いです。
素材自体が強いため、大きな空間を作りやすいです。ただし、工場生産が主で、特にハウスメーカーなどは規格品が多いため、細かな凹凸や造形などは作りにくいかもしれません。また、壁で構造を形成するため、壊せない壁が出来てきます。改修の際にはその点に気を付ける必要があります。
まとめ
最近、木造ブームで陰に隠れがちな鉄骨造ですが、今まで様々な街の発展を支えてきたのも鉄骨造です。
私は好きですけどね。鉄骨造。
ただし好みは人それぞれだと思いますので、最後はご自身で決めていただくことが一番だと思います。
今回の内容をまとめますと、
✅鉄骨造は、素材の強度が高く、靭性(粘り強さ)があるため、地震に強い。
✅鉄骨造は、現場での加工が少ないので、均等な品質を担保できる。
✅一方、一定の温度に達すると急激に耐力が低下するため、耐火処理をする必要がある。
✅鉄骨造は高価。
ここまでご覧いただきありがとうございました!
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